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シフト制に関する注意点


パート・アルバイトを雇用しシフト制で働いてもらう場合、労働契約を締結する時点では具体的な労働日や労働時間等が確定しておらず、1か月ごとに勤務シフトを作成しその都度通知するというケースも多いでしょう。

パート・アルバイトのシフトに関しては、会社側の「必要な労働力を必要な時に活用したい」という希望と、従業員側の「働ける日・時間に働きたい」という希望をすりあわせることによって双方にメリットがもたらされ、双方の希望が一致している限りはトラブルになりにくいものです。

しかしながら、先般の新型コロナウイルスの感染拡大時には特に飲食事業を中心に営業そのものができなくなり、パート・アルバイトのシフトをどうするかという問題が発生しました。
当時は雇用調整助成金の特例もありましたので、従前のシフトをそのまま使って休業時には休業手当を支払い、その額を助成金で賄うという対応をされた会社も多かったと思いますが、もともとシフトを組んでいなかった分についてはシフトが0になり、パート・アルバイトの給与が支払われないケースもあったようです。このケースは新型コロナウイルス感染拡大による休業を「不可抗力によるもの」とし、よって休業手当の支払い義務なしと判断したものと思われます。(どのような場合に「不可抗力」と認められるかについての説明は長くなるため今回は割愛します。)

このような緊急事態以外でも、例えば業務の繁閑に応じて「今日はお客さんが少ないので早上がりしてよい」等、柔軟に労働時間を変更することはどこまで認められるのでしょうか。

厚生労働省が示している「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」では、雇用契約の締結時の「始業及び終業の時刻」について、「労働契約の締結時点において、すでに始業及び終業時刻が確定している日については、その日の始業及び終業時刻を明示しなければなりませんので、労働条件通知書等には、単に「シフトによる」と記載するのでは足りず、労働日ごとの始業及び終業時刻を明記するか、原則的な始業及び終業時刻を記載したうえで労働契約の締結と同時に定める一定期間分のシフト表等をあわせて労働者に交付するなどの対応が必要です。」とされています。

例えば、労働条件通知書で労働日を「月・水・金」労働時間帯は「10時から15時」のように特定しておくことができれば最もトラブルになりにくいことは明確ですが、労働日を労働条件通知書で明示している場合はそれが労働条件として明確に定まっていますので、会社側が一方的にそれを変更することはできません。
会社の都合でシフトを減らす(休ませる)場合は休業手当を支給したり年次有給休暇の取得を認めることになります。
労働時間の一部を休業させる(早上がりさせる)ときも同様です。

しかしながら、シフト制では必ずしも労働日や始業終業時刻が労働条件通知書で明示されず、労働日が単に「シフトで定める」等の記載となっていることも多いでしょう。
この場合はその都度シフトを示していくことになりますが、当該シフトがその従業員の労働条件となりますので、やはり作成したシフトを一方的に変更することはできず、基本的に「暇だから早く帰ってもらい賃金は払わない」ということはできないということになります。
もちろん一度決めたシフトは一切変更できないという意味ではなく労使の合意があれば変更は可能ですが、その際のルール(変更の期限や手続き等)についてはあらかじめ定めておいたほうが良いでしょう。

では、雇用契約上労働日は単に「シフトで定める」とだけ決まっているとき、シフトが未作成の期間について労働力の調整のためシフトを0日とすることや一方的にシフトを減らすことは可能でしょうか?
本件については法的に明確なルールが定められていません。しかし、特にフルタイムに近い時間働いている従業員にとっては会社からの一方的なシフトの大幅削減は収入減少に直結するため、受ける不利益は相当大きなものとなりトラブルとなる可能性が高く注意が必要です。

厚労省の示している留意事項では「労働日、労働時間などの設定に関する基本的な考え方」として、労働者の契約内容に関する理解を深めるためには、シフトにより具体的な労働日、労働時間や始業及び終業時刻を定めることとしている場合あっても、その基本的な考え方を労働契約においてあらかじめ取り決めておくことが望まれるとし、例として「毎週月、水、金曜日から勤務する日をシフトで指定する」「1か月〇日程度勤務」など、あらかじめ労使で話し合って合意しておくことが考えられるとしています。

労働日や時間や重要な労働条件になりますので、確かにあらかじめ明確になっていればそれだけトラブルにはなりにくいですが、あまり厳密に決めてしまうとシフトの柔軟な変更ができなくなり労使双方にとって不都合なこともあろうかと思います。
また、毎月のシフト作成において個別の契約内容を細かく確認してシフトを埋めていくことは大変手間のかかる作業となります。
そのため実際の運用としては労働条件通知書では労働日数や時間についてあらかじめ合意した部分をきちんと記載するとともに、その都度従業員のシフト希望を出してもらい、柔軟に会社がシフトを組んでいくという運用がスムーズかつトラブルも少ないでしょう。会社としてリスクを避けるためにも労使双方のコミュニケーションが重要になってくると考えます。


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