先日とある会社様より給与規定についてのご相談をお受けしていた際、「有給休暇を取得した社員には皆勤手当を払わなくていいですよね?」というお話がありました。
本件については、沼津交通事件(平成5年6月25日最高裁判決)という有名な判例があります。
【事案の概要】
(1) タクシー会社Y社は、勤務予定表どおりに勤務した場合には1か月3,100円ないし4,100円の皆勤手当を支給するが、年次有給休暇を取得した場合には皆勤手当の全部又は一部を支給しないこととなった。
年休を取得したことによって皆勤手当が減額された運転手Xは、こうした取扱いは労基法に反するなどとして、減額あるいは支給されなかった皆勤手当と遅延損害金の支払いを求めて提訴したもの。
(2) 静岡地裁は、有給休暇を取得した日を欠勤扱いすることは取得を抑制し、公序に反するとしてXの請求を認容したが、静岡高裁は、皆勤手当の減額・不支給が有給休暇の取得を事実上制約する抑制的効果を持っていたとまでは認めらないこと等から、直ちに公序良俗に反して無効であるとすることはできないとし、最高裁もこれを支持した。
労働基準法第136条で使用者は年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならないということを規定しています。
しかしながらこの判決では労基法136条の規定は努力義務であり、会社の規程は法の趣旨には添わないが、無効とまでは言えないとしています。
本件において不支給となる皆勤手当の額は4,100円、欠勤1日で半額、2日で不支給となるもので、給与総額に占める割合がさほど大きくありません。この額であれば有給休暇を取得した際に不支給としたとしても、だからといって有給休暇の取得する権利を抑制するほどの不利益取り扱いとはならないだろう、ということです。
つまり不利益取扱いの趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度などを総合的に判断していくことになりますので、年休を取得した社員には皆勤手当を支給しなくてよいということではありません。また、違法ではないとはいえ、法的に認められた年次有給休暇を取得しただけなのに皆勤手当が不支給になることに納得いかないと考える従業員もいるでしょう。
会社としては、人手不足の折なるべく休まず働いてほしい、休みを取らずに頑張っている従業員に報いたい、という考えがあるでしょう。また、年休を取得せず働いている従業員からすると、突発的に年休を取得する他の従業員の業務フォローで負担がかかり不満が発生しているということもあるかもしれません。
一連の働き方改革の中で年次有給休暇の取得義務化もされ、「うちの会社はまともに有給休暇もとれない」という状況では雇用維持も難しくなってきています。
しかしながら、特に中小企業においては労働者の休む権利ばかり主張されてしまうと事業の運営に支障が出かねません。
例えば、就業規則に「有給休暇の取得にあたっては〇日前までに書面で申請する」といった規定を置き、休みをとる際は周囲への引き継ぎ等の配慮をしてもらうとともに、突発的な傷病等による欠勤については当日の始業時刻までの電話連絡により後日書面を提出することで有給休暇への振り替えを認めるという運用にし、その場合は皆勤手当を不支給にするという運用もあり得ると考えます(もちろん不支給となる金額等の諸条件によります)。
会社のルールは違法でなければ良い、という単純なものではありません。
判断に迷うときは専門家である社労士にご相談ください。